『蜂起』読書会・第1章

ヨーロッパの崩壊 The European Collapse(p.23–70)
匿名掲示板「クリエイト浜松」での読書会記録
2026年4月12日(土)〜 4月20日(日)

Franco "Bifo" Berardi — The Uprising: On Poetry and Finance(2012)
杉田敦訳『蜂起 詩と金融における』水声社(2023)

序章を終えた4月12日の夜、読書会は第1章「ヨーロッパの崩壊」に入った。金融のブラックホール、新自由主義の5つの操作、支払い不能の権利、疲弊のユートピア——ベラルディが2011年のヨーロッパ危機を描いた章を、参加者たちは遠州の買取専門店やNISA広告、オープン・ミュージアム・ラボの閉鎖性など、身近な現実と突き合わせながら読んだ。漢詩やサイファーの話題も飛び交い、匿名掲示板の議論は一層多層的になっていった。

序章のまとめは0.htmlを参照。読書会の趣旨については読書会概要(note)を参照。

① 記号資本の圏域 / ブルデュー

第1章冒頭「金融、ブラックホールと消えゆく世界」で金融は経済的象徴化の最も抽象化された段階だと宣言される。参加者はブルデューの「信仰の圏域」との接続を見出す。

Finance is the most abstract level of economic symbolization. It is the culmination of a process of progressive abstraction that started with capitalist industrialization.
— The Uprising, p.23
2026-04-12 22:20:23
序を終え第一章に入りましょう、もちろん蒸し返しは歓迎です。"金融は、経済的象徴化の最も抽象化された段階である。"(『#蜂起』p.33.l.1)金融には3つの業態、銀行・証券・保険がありT.S.エリオットのように金融と詩を兼業?していた人は金子兜太・石垣りん・ウォレス・スティーヴンズなど、実は私もかつて。みなさんが抱く金融のイメージは?
2026-04-12 23:06:27
体制としての金融に対するぼんやりとした嫌悪感はあるが、実は殆ど知らない。従業員に対しては胃に穴が開きそうで大変だと思う。
2026-04-13 00:48:07
窓口の清潔感と、内情の不潔感。
2026-04-13 08:53:50
「胃に穴が開きそう」「内情の不潔感」はマルクスの言うところの具体的有用労働に対する"抽象的労働"(『#蜂起』p.33.l.3)に由来するものなのかな?
2026-04-11 22:25:45
作品の価値を生み出すのは作者の才能などではなく、信仰の圏域としての生産の場le champ de production comme univers de croyanceであること
2026-04-11 23:23:43
croyance(信仰)ではなくvoyance(見通し)だと面白くなりそうだ

「窓口の清潔感と、内情の不潔感」は七文字で金融の本質を突く。ベラルディが書いた "clean, smooth, perfect"(p.34)な数学的奴隷制の外面と内面の乖離を、匿名の七文字が要約した。ブルデューの「信仰の圏域」をcroyance(信仰)ではなくvoyance(見通し)に読み替える提案も、記号資本主義の「見通し=予言の自己成就」という構造を暗示する。

② 遠州サイファー:声の蜂起

序章の「声」と「ポエトリーリーディング」の議論から、遠州地域のフリースタイルラップ文化(サイファー)が発掘される。浜松・浜北・森町・細島と、各地にサイファーが存在していた。

2026-04-12 06:47:15
森町サイファーだけど袋井市のあけぼのふれあい公園など、MY Life MC battle(2025/12/6)の会場は上貫名せせらぎ公園の原野谷川。細島サイファーは静岡県西部地区を拠点とするラッパー集団、2021年に結成。
2026-04-12 07:06:50
#蜂起 サイファーで、言葉はどんなふうに磨かれ鍛えられるんだろう。disってもいいけどユーモアと節度がほしい。
2026-04-12 08:36:14
原野谷川はサイファーだったのか。日本では政府による監視は少ないが住民による監視が過剰なので、周囲に家が建たない事を願う。軟弱地盤の上に非正規に育ってほしい。
2026-04-12 18:57:23
2011年の浜松駅前サイファー動画

ベラルディが "the voice and poetry are two strategies for reactivation"(p.20)と書いた「声」は、遠州では河川敷のサイファーとして実在していた。「住民による監視が過剰」なので「軟弱地盤の上に非正規に育ってほしい」という投稿は、ベラルディの「自律autonomy」の概念を遠州の住宅事情に着地させた好例。

③ 漢詩の乱入

サイファーの話題のさなかに突然漢詩が投稿される。原野谷川のサイファーを漢詩で詠む——言語の脱自動化が実演された。

2026-04-12 09:59:54
原川暖氣臻。子女喚慈親。橋下公園角。寒傖嘻哈輪。
2026-04-12 11:20:50
ええっ、漢詩ですかいきなり。
2026-04-12 11:26:28
歴史に強いレペゼン袋井
2026-04-12 11:57:25
春日旺旺灼鋪石。著風衣背汗滴滴。群体在転瞬即逝。吾倶集読布拉迪。

フリースタイルラップの話題に漢詩で参入する暴挙。「嘻哈輪」はヒップホップ・サークル(=サイファー)の音訳。2首目の「群体在転瞬即逝。吾倶集読布拉迪」は「群体(swarm)は一瞬で消えるが、我々は集まってベラルディ(布拉迪)を読んでいる」と読める。序章で議論したswarmの訳語「群体」がここで漢詩に活かされている。「レペゼン袋井」という返しも秀逸。

④ 債務は約束:ドルの脱参照化

「数学的残虐さと象徴的破産」節から、債務(debt)とは言語行為であり約束に過ぎないという議論。

Debt is an act of language, a promise. The transformation of debt into an absolute necessity is an effect of the religion of neoliberalism.
— The Uprising, p.31
2026-04-14 18:45:47
"債務は、ある言語行為、約束なのだ。債務が絶対的な必然性に変質するのは、今日の世界を、野蛮主義や社会的荒廃に導く、新自由主義信仰がもたらす効果なのだ。"(『#蜂起』p.41)
2026-04-14 12:02:34
タイムズスクエアの電光掲示板に債務の膨らみ、通貨の暴落を見るのはアメリカ人エリートの感覚。日本の庶民は財布の最高価値の紙幣のゼロの数で分かる。#蜂起
2026-04-14 12:30:54
3000倍超のインフレですね。"人生は、形而上的な債務を返済するための時間に変わったのだ。"(『#蜂起』p.35.l.12)人生が家・車・奨学金のローンを返済するための時間に変わったのというのは実感できます。

ベラルディは原文p.30-31で1972年のニクソンによるドル金本位制離脱を "dereferentialization in the realm of monetary economy" と呼ぶ。「日本の庶民は財布の紙幣のゼロの数でわかる」はボードリヤールが引いたタイムズスクエアの債務時計(原文p.24-25)への日本的応答。「人生がローンを返済するための時間に変わった」は原文の "life turned into time for repaying a metaphysical debt"(p.25)の生活実感への翻訳だ。

⑤ 数学的奴隷制とNISA:老後2000万円問題

「数学的奴隷制」がNISA・FX・保険CMと接続され、遠州の日常と金融資本主義の関係が浮かび上がる。

They want to peacefully submit the European population to mathematical slavery, which is clean, smooth, perfect.
— The Uprising, p.34
2026-04-15 06:11:21
"彼らはサディスティックな杀殳人者には見えない。けれども彼らは、ヨーロッパの人々を、平和裡に、数学的奴隷制に服従させようとしている。"(『#蜂起』p.43)日本でこのような数学的奴隷制を感じますか?
2026-04-15 07:06:28
#蜂起 さいきん、TVやネットなどで〈マネードクター〉や〈マネックス〉、FXやNISAなど資産運用に関するCMが多いですね。わたしはクライアントもパートナーも一種の〈数学的奴隷〉だとおもいますが。
2026-04-15 11:12:53
高齢者向けのテレビ宣伝では保険の話ばかり。不安を煽る演出は減ったが、読み上げる原稿や引用する数拠自体が不安を煽る誇大妄想。老いを楽しむ余裕を奪う。#蜂起
2026-04-15 12:05:08
ひと昔前に老後2000万円問題がありましたね。今では幾ら必要だということにされてしまうのか #蜂起

原文p.34の "mathematical slavery" は2026年の日本ではNISAやFXの広告として現前している。老後2000万円問題という数字が「お前は足りない」と宣告する——これは原文p.32の "rating agencies [...] utter a self-fulfilling prophecy" の日本版と言える。

⑥ 詩人は貧しすぎて:安東次男と株式投資

ベラルディがT.S.エリオットのロイズ銀行勤務に触れた一節から、日本の詩人・安東次男の株式投資の逸話が飛び出す。

Poets are too poor to invest money in the stock market. There are exceptions, like T. S. Eliot, who was employed at the Lloyds Bank while writing The Waste Land.
— The Uprising, p.27
2026-04-15 12:50:28
#蜂起 p.37〈詩人は、貧しすぎて、株式市場にお金を投資することなどできないのだ。〉安東次男は、かつて〈株式市場にお金を投資〉。本人曰く、他者へのアドヴァイスが図に当ることはあっても、己れの勘が当ったことはあまり無かった、と。
2026-04-15 15:30:02
なるほど安東次男は東京帝国大学経済学部経済学科か

ベラルディの「詩人は貧しすぎて株式投資なんてできない」に対し、安東次男という反例が即座に提示された。東京帝大経済学部出身の詩人・批評家。「他者へのアドヴァイスは当たるが己の勘は当たらない」は金融のパフォーマティヴィティ(performative utterance, 原文p.32-33)の個人的証言にもなっている。

⑦ オープン・ミュージアム・ラボ:ガヴァナンスの実演

第1章のgovernance(ガヴァナンス)論を読んだ直後、浜松市の新美術館構想「オープン・ミュージアム・ラボ」の閉鎖性が批判の俎上に載る。理論が地元の問題と完全に重なった。

Governance is a keyword in the process of the financialization of the world. Pure functionality without meaning. Automation of thought and will.
— The Uprising, p.28
2026-04-14 10:13:03
浜松市新美術館のオープン・ミュージアム・ラボって、浜松市のクリエイターたちが「意味と言葉の規制解除」を使い、一読するとオープンなことをしながら、社会活動や文化芸術活動を技術-言語的なガヴァナンスに服従させようとしていると言える。
2026-04-15 11:52:56
「オープン」がぜんぜんオープンじゃないんですよね。オープン・ミュージアム・ラボなのに既存メンバーとの関係性でメンバーを決める閉鎖性があります。
2026-04-15 12:51:42
いっそのことクローズド・ミュージアム・ラボを勝手に名乗り情報を公開する事でオープン・ミュージアム・ラボの構成員に対して疎外感を与えてしまうのも一策か。

ベラルディが原文p.28で "governance is information without meaning, a dominance of the unavoidable" と定義したガヴァナンスが、浜松市の新美術館構想にそのまま当てはまる。「オープン」を名乗りながら閉鎖的にメンバーを決め、アンケートで誘導する——原文p.28-29の "deregulation means liberation from the constraints generated by conscious will, but simultaneously submission to techno-linguistic automatisms" の地方版実演だ。「クローズド・ミュージアム・ラボを名乗って情報を公開する」という提案はベラルディ的なアイロニーの実践そのもの。

⑧ 金の美と買取専門店:抽象化する金融の一端

「金(gold)はそのものが美だから価値があるのか」という問いから、浜松で増殖する買取専門店がベラルディの金融論と接続される。

Financialization and the virtualization of human communication are obviously intertwined: thanks to the digitalization of exchanges, finance has turned into a social virus that is spreading everywhere, transforming things into symbols.
— The Uprising, p.24
2026-04-13 10:48:12
金(aurum, gold)はそのものが美だから価値があるのか? 希少性・保存性などの価値があるから美なのか? #蜂起
2026-04-13 18:16:54
好ましい感情を呼び起こすから。本来の有用性がハッキングされている。だからビフォは一層加速し抽象化する金融を社会的ウイルスに譬えるのだろう(#蜂起第一章)。通貨はいつも美しく見える。
2026-04-13 21:25:15
#蜂起 〈一層加速し抽象化する金融〉。一方で〈お宝や〉〈大吉〉〈福ちゃん〉なと、家庭に眠る〈お宝〉の買取業がふえている。スーパーマーケットの空きスペースにちゃっかり居すわったり。〈価値の交換〉は依然とある。
2026-04-13 22:35:44
買取専門店は、確かにモノを作らず〈価値の交換〉のみを行っています。"経済が、モノの製造に取り組むことをやめ、その代わりに、お金の循環から世界を喚起させるようになると、債務の肥大化は避けられなくなる"(『#蜂起』p.40)買取専門店がやっていることはお金の循環であり、抽象化する金融のすがたの或る一端なのではないでしょうか?

「通貨はいつも美しく見える」「本来の有用性がハッキングされている」——参加者は原文p.24の "finance has turned into a social virus [...] transforming things into symbols" を身体感覚で言い当てた。スーパーの空きスペースに居座る買取専門店は、「モノの製造をやめお金の循環で世界を喚起する」金融の末端が遠州の日常に浸透した姿にほかならない。

第1章を読み終えて

序章が翻訳問題とバズる詩を軸にしたのに対し、第1章では議論の射程が大きく広がった。金融の抽象化論を買取専門店やNISA広告に接続し、ガヴァナンス批判をオープン・ミュージアム・ラボに適用し、サイファーの声を漢詩で詠む——匿名の参加者たちは、ベラルディの理論を遠州の具体に「脱領土化」ならぬ「再領土化」し続けた。

ベラルディは第1章の末尾で "the coming European insurrection will not be an insurrection of energy, but an insurrection of slowness, withdrawal, and exhaustion"(p.68)と書いた。「疲弊の蜂起」。この概念は、序章で「まちへ出てポエトリーリーディングをしろ?」と問うた参加者たちに対するひとつの回答かもしれない——蜂起とは叫ぶことではなく、減速し、撤退し、疲弊を受け入れることなのだ。

次章「2. 言語、経済、身体」へつづく